甲状腺疾患について
甲状腺って何?
甲状腺は蝶々のような形をしており,首の前側,気管の前に張りついています.
甲状腺ホルモンは,全身の細胞の代謝(たいしゃ:体の中の化学反応)を司り,体の成長や発達に欠かせないホルモンです.言ってみれば,細胞の働きの潤滑油です.
甲状腺疾患とは?
甲状腺の病気には,大きく分けて甲状腺自己免疫疾患と一過性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎,甲状腺腫瘍があります.当院で診療するのは,内科的甲状腺疾患で,甲状腺自己免疫疾患と亜急性甲状腺炎です.甲状腺腫瘤は,適宜内分泌外科に紹介致します.
甲状腺自己免疫疾患とは?
免疫とは,本来自分を攻撃してくるウイルスや毒物に反応して戦って排除する働きです.戦う相手が自分自身の一部に向いてしまうと病気になります.
有名な自己免疫疾患には,関節リウマチがあります.この場合,戦う相手が関節の滑膜なので,関節が侵され,非常に痛い思いをします.一方,戦う相手が甲状腺に向くと甲状腺が腫れてきますが,通常痛くありません.甲状腺自己抗体と言って,本来外敵と戦う物質が血液中に現れます.この抗体の種類によって大きくバセドウ病か橋本病に別れます.甲状腺はホルモンを産生している臓器なので,ホルモン値が変動すると症状が出ます.自己免疫性甲状腺疾患を治療する目標は,甲状腺ホルモン値を正常化することです.
甲状腺機能亢進症状は?
バセドウ病や無痛性甲状腺炎の場合,血液中に甲状腺ホルモンが過剰にあるので,「じっとしていても全力疾走しているような状態」になります.胸はドキドキ,汗はダラダラ,体温が38度近くにまで上がることもあります.足はガクガクし,3ヶ月半年で体重が5〜10kg減ることもあります.腸が動くので,原因不明の下痢として経過することもあります.子供であれば,落ち着きが無くなります.無痛性甲状腺炎であれば,数ヶ月で症状はおさまります.
甲状腺機能低下症状は?
橋本病や中枢性甲状腺機能低下症のように,血液中の甲状腺ホルモンが足りなくなると,頭の働きが落ちれば物忘れや気力減退,心臓の動きが悪くなると息切れや脈がゆっくりとなりむくみなどの心不全症状が出ます.体温も下がるのでやたらと寒がりになり,疲れやすく頑固な便秘になります.女性であれば月経不順となります.
甲状腺に痛みが出る病気とは?
甲状腺に痛みを生じる病気では,亜急性甲状腺炎と甲状腺の嚢胞(腫瘍の内部にコロイドというドロドロした液体をためているもの)に出血をきたした場合があります.稀に橋本病が急性増悪した場合や,細菌が甲状腺に感染した場合(急性甲状腺炎),甲状腺未分化癌などがあります.
亜急性甲状腺炎とはどんな病気?
ウイルスが甲状腺を犯すことにより,甲状腺が腫れて破壊され,痛みがでる病気です.甲状腺の中の濾胞(甲状腺ホルモンの貯蔵庫)が壊れるので一時的にホルモンが流出し,甲状腺中毒症状(バセドウ病と同じように動悸や発熱,手の震え)が出ることもあります.治療が遅れると,甲状腺の反対側に移動することもあります.痛みや発熱が強い場合には,副腎皮質ステロイドを投与します.